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「何者」になるにはどうすればいい? 『sio』の鳥羽周作さんに聞いてみた

「何者かになりたい」

そんな声をTwitterでよく見かけます。特に、キャリアを築いている途中の20代は、何者かになるために新しいことに挑戦したり、自分を見つめ直したりともがくことが多いですよね。

前回に引き続き、今回お話を聞いたのは、レストラン・『sio』のオーナーシェフを務める鳥羽周作さん。

かつてはJリーガーを志していた彼が「何者」かになれた瞬間はいつだったのか。鳥羽さんの「プロとは何ぞや」論や、「続けるためのコツ」なども併せてお聞きしました。

▼前回の記事はこちら
「飲食店に”コスパ”はいらない」2万円のコースがつねに満席の『sio』にその秘密を聞いてみた

〈文=ゆぴ(17)〉

「何者になるか」より「何をやりたいか」を考える

すがけん:
Twitterを見ているとみんな「何者かになりたい」と言ってます。僕もたしかに20代のころは自分は何かが足りないな、と思っていたんだけど、鳥羽さんはどうでした?

鳥羽さん:
僕は、「何になりたいか」というよりは「何をやりたいか」という「事(こと)」に向かわないといけないと思っています。そして、そのために今何をしなくちゃいけないかを考えるのが大事だと思うんですよ。

昔は、有名になりたいと思っていたこともあるけれど、今はそれよりも『sio』を通じて何をしたいのか、ということに興味がありますね。だから、幸せの分母を増やすために育成をするし、自分が知られてないと人が集まらないのであれば、メディアに出てフィロソフィーも話します。「何になりたいか」は後付けですよね。

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すがけん:
でも、若いときはそれをどうやって見つけていったらいいんですかね? 僕は未だに「これだ!」というのがなくて、興味があることを実験的にやってるだけなんですよね。

鳥羽さん:
でも、それでいいと思うんですよね。意外とやりたいことはないけど、目の前の興味あることを楽しんでやっている人が活躍しているし、これは「性分」の問題だと思うんですよ。

現時点で「1店舗でたくさんお客さんが入っているし、もういいじゃん」なんて言われますけど、僕は自分よりも料理をやれる人が増えてほしいと思っているから、もっと店舗を増やしていきたいと思っています。ただただ、そういう「性分」なんですよね。

すがけん:
その「性分」というのは昔からですかね?

鳥羽さん:
考えは大人になってから整ってきたんですけど、思い返してみれば親父がそうだったんですよ。昔から、サッカーの練習が終わったらみんなでうちに来て、親父が作ったカレーを食べていました。そういう親父のもとで育ったから、家の出入りも多かったし、人と何かをするのが好きだったんです。

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鳥羽さん:
ただ、そのときはそれを職業にするという感覚もなかったし、もともとそんな大義名分があって『sio』を作ったわけじゃない。

それが、シェフになったときに、「シェフになって何するの?」という思いが芽生えてきたり、「一生懸命働いたのに給料が全然もらえない」「料理業界って何でこんな稼げないんだ」と課題が見えたりして、それが『sio』になる経緯で整っていったんだと思います。

すがけん:
その、下積みをやったときに感じたことを、今変えられる立場になって、自分の意思決定で大義としてやっているんですね。だって、正直原価を下げて利益だけ取ってもいいわけじゃないですか。

鳥羽さん:
いやぁ、性分なんでしょうね(笑)。僕は「働きたい」って言われたら断れないからみんな雇っちゃって、結局箱がないから新しいお店をやるわけじゃないですか。

自分もそうやって育ってきたから、次のお店は若い子がチャレンジできるようにしよう、と思ってやっています。何でかというと、僕はめっちゃ料理が好きで、料理業界が好きだからです。

「プロ」とは求められているものに期待以上を返すこと

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鳥羽さん;
最近、「プロって何なのか」と言うことを整理しているんですけど、やっぱり求められているものに対し、期待以上を返すことだと思うんですよね。昔も今も「サッカーのプロはすごいなぁ」と思っているんですけど、フラットで見たときに、プロであるための「覚悟」ってそんな軽いものじゃないですよね。

僕が人生のなかで料理を作る回数って決まっていて、すがけんさんも一生に出会うお客さんは決まっているじゃないですか。そのうちの1回や1人ってすごく大きくて、その「機会に対する覚悟」がどれだけあるかが大事だと思っています。

すがけん:
sioにとっての料理は「日常」だけど、食べるほうは人生のなかの1回かもしれないですよね。僕も、仕事で嫌なこと、責任の取れないことは絶対にやらないと決めています。そうやって資料は作らないけど、考えることに責任を持ちます、と徹底してやってきて、おかげさまで1年経ちました。

鳥羽さん;
それはすごく本質的ですよね。

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すがけん:
宇多田ヒカルさんのプロデューサーが教えてくれたんですけど、宇多田さんはファンクラブがないんですよ。あったほうが絶対儲かるのに。

何故かと尋ねたら、「私は歌以外に責任に持ちたくない。それ以外のことをやって、お金までもらって、それを返すために歌が疎かになるくらいなら、それ以外のことをやりたくない」と言ったそうです。

それと同じように、『sio』は箱だけのことしかやらないし、僕は喋ること以外に責任は取らない、というのはすごく大事だと思います。

鳥羽さん:
僕もいろいろやっていますが、「職業は何ですか」と改めて定義したらやっぱり「料理人」なんですよね。いくら「『sio』いいな」とて言われても、「料理うまいな」と言われていなかったらダメで、いいものを作るのが当たり前。

自分の職業が「料理人」だったら、料理がまず、おいしくなかったらその前も後もないんですよ。

すがけん:
ただの「雰囲気のいい箱」になっちゃいますよね。

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鳥羽さん:
僕がいろんなメディアに出ることには賛否両論あるけど、まずは「料理がうまいんだな」と言うスタートが大事で、そこから「料理と同じくらいおしぼりもいいな」と思ってもらうことで、感動してもらえたりするんです。

そして、「感動」は丸投げするものじゃなくて、「導く」ものだと思っています。

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すがけん:
料理を出されて「さぁどうぞ」と言われても、住んでるところも環境も味覚も違う人が同じように感動するって難しいですよね。

鳥羽さん:
サービスというよりは、自分たちはお客さんをここに誘導したいのがあって、どのタイミングで伝えるか、この人にはどう説明するか、という「伝える技術」「言語化」の部分に重きを置いていますね。

「導く」意味でもあえて10皿のコースだし、戦略的に感動をどう作るのかを細かく設計しているかもしれません。

もっと良くしていくために、あえて「壊す」

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すがけん:
『sio』がビジネスとして高いものを買ってもらいながらも、続けられているコツは何なんですか?

鳥羽さん:
ミスチルで例えるなら、過去のアルバムより今のアルバムを自分たちがいい、と思うことですね。「あのころの料理よかったね」と思わないように「壊す」作業が大事だと思います。

すがけん:
めちゃくちゃ大事ですね。経営的には基本的には今ある利益を何に使うかで次の成長に投資し続けないと大きくなっていかないと思うんですけど、何か投資しているものはありますか?

鳥羽さん:
『sio』では毎月設備に30~50万円使うと決めています。それは、過去に2万円を払ったお客さまに対して、次来たときに違う表情が見れると、「自分が使ったお金はこういうふう還元されているんだな」と見られるのって大事じゃないですか。

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鳥羽さん:
毎月お土産や音楽、グラスが変わるとか、わかりやすい形で還元していく。それは短期的なスパンで見るとあまり利益に繋がってないかもしれないけど、「『sio』はそういうふうにやってくれるんだ」という強い信頼関係は築けるわけじゃないですか。

だから、たとえ今日お客さんに「めっちゃ良かった」と言われても、明日はもっと良くしたいから壊していくし、お金も使っていく。「留まらない」というのは大事ですよね。

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すがけん:
それはリピーターだけじゃなくて新規のお客さんにもいいですね。大体はお客さんに来てもらうために値引きのクーポンを用意して待っているけれど、あんまりいらないですよね。大事なのは今日来た人が1ヶ月後に来てくれるかどうかですよね。

鳥羽さん
「レストラン業界における最高を作る」となると、今の『sio』は100点なんですよ。でも、次また同じだと…

すがけん:
むしろ一回味わってしまった人にとっては90点になってしまうかもしれないですよね。

鳥羽さん:
そう。だからつねに100点を120点にして、また100点を取ったら、また120点にしていくという余白の部分を何で作っていくかというための「壊す」という作業がいる。

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鳥羽さん:
そのためには、他のジャンルの掛け算やインプットが必要だと思っています。料理業界だけではやれることは本当に少ないような気がしている。だから、新しいシーンを作るうえで違う人たちとの掛け算がめっちゃ大事になってくるし、「新しさ」を出し続けることで飽きられないんじゃないかと思ってます。

料理というよりは、お店全体の上澄みを新しく作っていく作業で、そのために今のものを壊す勇気が必要だと思います。

すがけん:
僕は会社は、「価値の創造」と「価値の証明」だけでいいと思っているのですが、今までの会社は、価値の創造を重要視してて、語ることに適当だったんですよね。一方で、価値の証明が得意な会社は大したものが作れなくてもマーケティングの力で売れてしまって飽きられる、というのがあったんです。それでいくと、『sio』は両方やっているからバランスが良いですよね。

鳥羽さん:
「二足のわらじ」というけれど、実は一緒なんですよね。原価50%で料理を作るとビジネスとしてダメ、原価30%で作ると料理としてダメ、と別で考えていると捻れが起きちゃうんだけど、お客様をハッピーにする、という方向で考えるとどっちも大切だと思うし、両立できるはず。

すがけん:
物も良くないといけないし、ストーリーも大事だし。

鳥羽さん:
『sio』は「応援型コミットレストラン」でありたいなと思っています。仮に、ハーゲンダッツの新作がめちゃくちゃおいしかったら、友だちに「食べてみて!」と自信を持って言えるじゃないですか。『sio』はそういうお店であり続けたい。誰かが鼻が高くなるような、誰かに言いたくなるようなコンテンツにしていきたいなと思います。

僕が考えているのは「お客さんをハッピーにすること」だけですからね。

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〈文・撮影=ゆぴ(17)(@milkprincess17)〉

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