「飲食店に”コスパ”はいらない」2万円のコースがつねに満席の『sio』にその秘密を聞いてみた
代々木上原に佇むレストラン・『sio』。
クリエイターを始めとするさまざまな人たちが集まるこのレストランは、料理が素晴らしいだけではなく、唯一無二の特別な場所だと、訪れた人は口を揃えて言います。
しかし、そんな『sio』のディナーコースはなんと2万円。
決して安くはない値段なのに、なぜ『sio』はつねに満席状態なのか。今回は、『sio』のオーナーシェフ・鳥羽周作さんに、その秘密をお聞きしました。
〈文=ゆぴ(17)〉
好きな人と仕事をすれば、「切り口」が増える
こちらがレストラン・『sio』。目を惹く鮮やかなブルーの扉が目印です。
すがけん:
僕は常連なのでアレですが、読者のために改めて、『sio』について聞いてもいいですか?
鳥羽さん:
『sio』は単なるレストランではなく、レストランをプラットフォームとして捉えて設計しています。クリエイターや面白いことをしている人が集まるような、一人暮らしのテーブルのように、すべてが手の届く範囲にあるような場所にしようと思いました。
すがけん:
そのコンセプトは、はじめからだったんですか?
鳥羽さん:
いえ、実は『sio』のロゴはトップクリエイターである水野学さんにお願いして作ってもらったのですが、その結果としてすべての”基準”が「水野さんのロゴ」になったことが大きいです。
水野さんのロゴ
鳥羽さん:
まずはロゴをどう履きこなすかを考えて、そこに他の要素を合わせていきました。たとえるなら、「せっかく素敵な服を作ってもらったのに、こんな身体じゃ着られない!」と筋トレを始めたような感じです。
そもそもこのロゴは、どうしても水野さんに作ってもらいたくて、まわりに「辞めておいたほうがいいよ、無理だよ!」と止められていたのを振り切ってお願いしたんです。
それを快く引き受けていただいたうえ、本当に素晴らしい仕事をしていただいた。どうしてこのロゴなのか、考えうるすべての字体を並べて、「この理由でこれにしました。だからもう、これしかないんです」と出来上がるまでの旅路をすべて説明してくれたんです。
そんな水野さんの思いが詰まったロゴに恥じぬことをやらなきゃ、と思いましたね。
すがけんさん:
なるほど、すべては水野さんのロゴに合わせて”背伸び”をしていったところから始まったんですね。
ちなみに、音楽も沖野修也さんが手がけていますが、これはどういう繋がりなんですか?
鳥羽さん:
実は僕、もともと沖野さんのことを知らなくて。
なんと!
鳥羽さん:
とあるイベントで料理をしているとき、流れてくる音楽がめちゃくちゃ気持ちよかったんですよ。そんな厨房で盛り上がっている僕らの様子を見て、沖野さん側もファンクをかけてくれたりして。
それで、あとで主催者に聞いて、メールを送らせてもらったことがきっかけなんです。「めちゃくちゃ良かったです!」って。
すがけん:
沖田さんといえば「レジェンド」的な存在だけど、鳥羽さんは「レジェンドだから」という理由ではなく「リスペクト」からお願いしているのが大きいですよね。
それに、好きな人と仕事したほうが絶対に気持ちいいですよね。僕も仕事をしている人はほぼみんな友だちですよ。しかも、お金を払うのは向こうなのに、「やってくれるんですか!? やったー!」と喜んでもらえる(笑)。
鳥羽さん:
僕も同じで、「家族になれるかどうか」を指針にして、いろんな人とお店を作っていっています。
家族になると、結果として「水野さんのロゴがあるから誰かを連れていこう」「沖野さんの音楽を聴きに行こう」「イケウチオーガニックさんのおしぼりがあるから行こう」というように、お店を訪れる切り口が増えていくんですよ。
そうやって、内装はこれ、ライトはこれ、とこだわりを増やしていくことで、どんどん家族が増え、『sio』は素敵な人が集まる場所になっていったんです。
「この指止まれ」と自らスタイルを表明する
すがけん:
でも、『sio』は「客単価を2万円」に設定していて、決して安くはないですよね。なぜこの値段に設定したんですか?
鳥羽さん:
以前、自分が働いていたお店はとても客単価が低かったんです。だから、頑張って働いても上限が見えちゃって。客単価が低いお店って、お客さんはコスパの良さに喜んでくれるんですけど、結局お店側が疲弊して潰れちゃうところが多いんですよ。
すがけん:
そっか…ビジネスとして成立しなくなっちゃうんですね。
鳥羽さん:
そうなんですよ。このままでは飲食業界が潰れていってしまう。それに、僕はお客さんとはお互いにフラットでいたいと思ったんです。
たとえば、トイレの石鹸も安いものよりも、「イソップ」のほうが気持ちいいじゃないですか。たしかに値段は高いかもしれないけど、その代わりお客さんにはそういう気持ちいいサービスを提供していきたいんです。
鳥羽さん:
それに、僕も、そういうことに気付いてくれる人に『sio』に来てほしい。裏を返せば、『sio』は2万円にフックがかからない人は来ないようになってるんです。
うちに来る人は全員がお金持ちというわけでありません。ただ、「2万円」の価値が『sio』にあると思うから来てくださっているんですよ。
すがけんさん:
そもそも「コスパ」はいるのか、という話ですよね。「コスパ=値段が安い」とは限らないじゃないですか。飲食店って多いけど、「コスパの良いお店」でフィルターをかけるのではなく、自分の物差しを持って「ここがいい」と言ってほしいですよね。
そういった意味でも、お客さんは選ばないとダメですね。全員が全員、何かを好きになることはないし、平均をとるとつまらないものができちゃう。
鳥羽さん:
値段もそうですけど、今は来てほしい人に来てもらうために、「自らスタイルを表明していく」という時代だと思うんですよね。
僕は、三つ星のフランス料理を嗜む人たちではなく、30〜40代のカジュアルな人たちに来てほしいから、テーブルクロスを敷いていなかったり、スタッフも全員Tシャツでスニーカーという格好をしたりしています。
すがけん:
『sio』は「この指とまれ方式」ですよね。
『sio』を最高だと思う人が来れば良いし、どうせ人口は減るんだから、分母を求めるのではなく、長く来てくれる人をもっと増やすほうがいいんですよね。
みんな業界や市場全体を見ているけど、要は満足するものを唯一なもので作れるかが大事だと思います。
レストラン体験の前後を含めてデザインする
すがけん:
ちなみに、そんな感度の高いお客さんたちを集めるためにはどこで発信をしているんですか?
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