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"SNS時代の次世代メーカー"として「北欧、暮らしの道具店」のクラシコムがメーカーの次の形を作り始めた気がしたのでまとめてみました

結論から言うとクラシコム社は従来のメーカーと異なる点が多くあります。さらにD2C企業と比較しても大きく異なります。その異なる点を分析してみると一方的なマスメディアではなくほぼ全ての消費者が利用しているSNSがある今の時代の新しいメーカーの形なのではと思うようになりました。この記事はメーカーとしてクラシコムは他と何が違うのか?次世代メーカーとは何か?について書いていきます。

以下の内容は僕がクラシコム社との仕事を通じて感じたことや外部から得た情報で書いているためクラシコム社の見解ではないことはご了承ください。あくまで僕個人の見解です。そしてクラシコム社は上場企業ですが投資家の投資判断に利用する意図で書いてはいないこともご了承ください。
そして従来のメーカーやD2C企業を咎めるものでもなく、むしろこの違いが多くのメーカーのヒントになれば良いなと思っています。

従来メーカーとの大きな違い

まずはこの比較表を見てください。
(本当はこれ一個一個に解説を入れていきたいのですがそうするとnoteの分量を超えて本になってしまいますのでそれはまたいつか・・・)

Moonshot社作成「従来のメーカーとクラシコムとの違い」

経営視点や重要指標が異なることでそれ以下のあらゆる取り組みが変わってくる

従来のメーカーもクラシコム社も「企業の成長」という意味では同じ方向を向いているような気がしますがそのビジネスモデルや手段が全く違っています。具体的には従来のメーカーのビジネスモデルは商品を作り、広告でどれくらいTVCMを出すかを決め、メーカーの営業がその広告量を営業材料に各販路(飲料ならコンビニ、化粧品ならデパート・ドラッグストア)の棚に並べ小売に販売をしてもらう「BtoBtoC」に対して、クラシコム社のビジネスモデルは商品をECで消費者へ直接販売する「BtoC」の形式をとっています。
なので「お客様は誰か?」でいうとメーカーはBtoBtoCなので流通・小売がお客様なのに対してクラシコムはBtoCなので直接の消費者がお客様になります。

クラシコムの消費者と直接つながるLIFE CULTURE PLATFORM構想

どこまでを自前で持つか

ここでD2C(Direct to Consumer)という「顧客と直接つながる」思想が重要になります。中間企業を減らし直接消費者に販売するD2Cの思想は2010年頃からスタートアップ中心に広がり、今や大企業も新規事業などで積極的に取り入れようとしています。しかし日本での成功例は少ないと思いますしクラシコム社のように上場まで行った会社はほとんどありません。今回の比較を通して感じたのはほとんどのD2C企業は顧客と直接繋がっていないor繋がってもそのメリットを経営に活かしていないと思いました。クラシコム社はD2C企業として商品作り以外の部分でもかなり自前主義で直接消費者につながる取り組みが多い企業になっています。

Moonshot社作成「D2Cと従来メーカーの比較」

もちろん外部パートナーの手は借りつつも基本的には自前主義です。極力中間企業に丸投げ・おまかせの形は取らず、やりたいことをそのままクラシコム社のメンバーが進めていきます。その結果消費者と直接繋がり距離が近くなるので消費者からのフィードバックを直接受け取ることができます。
D2C企業といいながら多くの企業が上の従来メーカーのような消費者との距離が遠いモデルになっていることも多いのでかなり特殊な存在です。
なぜこのようなことができるのかというと採用に大きな違いがあり、社員の8割程度が既存のお客様から採用しているのです。人材紹介会社や採用メディアをほとんど使わずにクラシコムユーザーが毎日見ている自社メディアに採用情報を載せることで本当に理念やサービスや商品に共感する「お客様でもある社員」を採用することができているのです。ここまで自前にすることで自社の伝えたいこと、作りたいことを外部任せにせずに実行することができています。

商品の作り方、発売の仕方も違う

未来の顧客を市場調査で探し出す従来のメーカーの市場調査に対して、クラシコムでは「すでにいるSNS/WEB視聴者や既存顧客」の声をアンケートで聞き、未来の商品のヒントとなるコンテンツを作成して反応を見てより購入者を意識した調査を行い、確実にニーズのあるものを作っています。
発売後TVCMで購入者を探すアプローチはせず、すでに購入したいと思っている既存顧客やSNSフォロワーへのコンテンツ提供で購入促進を行うことで確実に売れる状態を作り出せるのです。
かつ顧客と関係性が近いため販売後、商品到着後に商品のフィードバックを顧客からダイレクトに聴き最速で改善を行うことができます。
従来のメーカーは小売の棚取り合戦の末、発売ができたとしても常に隣には類似商品が並ぶ状況になり、小売の値下げなども始まりなかなか利益を増やすことが困難な状況になります。大量に安く売るのではなく、少量で高く売ることで利益をしっかりと出すことができます。

Moonshot社作成「商品の作り方も違う」

すでにコンテンツでエンゲージメントできている視聴者へ販売している

売り方も流通・小売任せにせず自社ECで販売しています。これができる理由は購入したいと思ってくれる「見込み顧客」とSNSですでに繋がり、大量にエンゲージしているためです。SNS視聴者・WEB視聴者・アプリ利用者(2000万人リーチ・430万アカウント)や既存顧客(42万人)や社員(前述した通り元お客様)の求めているものが高い解像度でわかっているため販売をすると同時に売り切れるように商品を販売することができるのです。

https://www.youtube.com/watch?v=2CRC-glkjIE(※2021年7月末時点)

顧客を大事にするからこそLTVを重視

最初から日本全体の1.2億人を対象に商品を作っているわけではなく、クラシコムのミッション「フィットする暮らし、つくろう。」を体現するコンテンツに共感するSNS視聴者を対象に商品作りや販売が行われています。
SNS視聴者はどんどん増えているためそこから新規購入者が増え、時間を経て既存購入者へと変化していきます。
なのでSNS視聴者からの新規購入、そしてリピーターへと変化をしてもらいLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を向上させることが重要になりクラシコムはそれに成功しています。
その結果、全体の売上を伸ばしつつ既存顧客の売上がしっかりと伸びています。

クラシコムIR「2023年7月期第2四半期決算補足説明資料(2MB)」

LTVの高い顧客と低い顧客を調査したところ意外な結果に

ではLTVとはどのように上げるのか?従来のECには以下のようなセオリーがあります。

・広告でキャンペーンを訴求してクリック単価を安くLPへ誘導
・無料やキャンペーン価格で価格を下げ、初回購入のハードルを下げる。
・メールアドレスを獲得したらCRMでメールで2回目購入を促す

広告で獲得し、メールでリピートをしてもらおうとすると「どうやって広告費(CPA:獲得単価)を下げるのか?」と「LPに来てもらったあとどうやって確実に買ってもらうか?」が重要になり上記のような形になるわけです。

しかしクラシコムで既存顧客のLTVの状態を調べたら全く別の結果が出ました。LTVはCRMで上げていくのではなく初回購入時点でその後のLTV成長が変わるとわかりました。

・広告ではなくSNSでフォロワーに新商品情報や商品の魅力が伝わるコンテンツを届け、欲しいと思ってもらう
・LTVの高いユーザーは初回購入時点で数千円の雑貨ではなく、数万円のクラシコムのオリジナル商品(アパレル)を購入し、満足度が高い
・メールでリピート訴求をする必要はなくSNSで毎日コンテンツを提供しているので「顧客の欲しいタイミング」でリピート購入する方がLTVが上がる

広告業界に長くいた僕も上記の広告+LP+CRMのセオリーで考えていたのですが実際調査してみると、「SNSを通じて顧客が欲しいものを欲しいタイミングで高単価のオリジナル商品を初回に購入した顧客のその先のLTVがとても高い」という結果になりました。
ここでも顧客重視の視点が重要なのだと気付かされたのです。

LTV向上にはCRMよりSNSが効いている

ではなぜクラシコムは従来のセオリーである広告+CRMの方法以上にSNSを通じてLTVを上げることができているのでしょうか。
広告で出会うユーザーはその時に初めてその商品・企業に出会うことになります。そのタイミングで購入するということは顧客の都合ではなく企業の都合で買ってもらう必要があるためセールステクニックで「買わせる」必要があります。(実際EC企業ではクレームが多い企業、サブスクで解約ができない企業、クーリングオフが多い企業も多いですよね)
なんとか初回購入のハードルを下げて購入してもらうことに成功し、次の購入をCRMで促進しても、顧客からただパーミッション(メールを送る許可)を得てメールを送るのと、能動的にユーザーがフォローしてSNSを毎日見てまた欲しくなるということにユーザーのモチベーションの差が出ていると感じました。
さらにSNSの凄さを感じたのは視聴者はクラシコムを当然すでに知っているのみならずコンセプトに共感をしてフォローをしていたり、毎日発信されるコンテンツのファンになっていて購入前の時点でエンゲージメントが高かったのです。
あとは自分の欲しい商品が出たタイミングで購入をしてもらうことで初回購入の時点で満足度が高くその後のLTVに大きな影響を及ぼしていました。
広告+CRMの企業からすると真逆の取り組みのSNSですが、メーカーにとってもSNSは重要だと思える結果となりました。

ブランドは商品カテゴリー単位ではなく企業で1つ

企業は商品単位のブランド(約束)が良いか、企業単位のブランド(約束)が良いのか?従来のメーカーは大抵複数の商品ブランドを持ち消費者とは商品ブランドを通じて接点を持っています。しかし商品単位で消費者と約束するということは「概念・情緒的価値」での約束ではなく「具体的な機能・役割」になりがちになります。一方クラシコムでは企業のブランドとして「北欧、暮らしの道具店」というものがあり「フィットする暮らし、つくろう。」という消費者に対しての約束を企業として行なっています。(実際他の企業のサイトを見てみて下さい。大抵TOPページは社会に対しての約束で消費者が不在で、商品ページでは機能としての約束が書いてあります)

企業として1つの無形の約束をする。このメリットとしては消費者と長い付き合いができるということです。有形の商品としての約束では消費者との関係は希薄になり、期間も短くなりますが無形の大きな約束は消費者と強い結びつきと長い期間の関係性を作ることができます。

まとめ、次世代メーカーとは

今回は従来のメーカーや他D2C企業とクラシコム社の相違点、クラシコム社のビジネス上の特徴について書きました。

ここでの気づきは、次世代メーカーが作るものというのは商品のみならずコンテンツや顧客との接点構築のためのアプリなどあらゆるものが含まれるのではないか?
クラシコムはそれを目指す結果、従来のメーカーよりも多くのコンテンツや顧客接点、そのためのケイパビリティを自前で保有しています。
今の時代に商品ではなく企業としてのブランド(約束)を持ち、SNSやアプリでコンテンツを通じて常時顧客とつながることで広告ではなくコンテンツで商品を売ることができるようになり、結果として顧客に卒業されることなく多くの人気商品を生み出し、顧客のLTVを上げることに成功していることがわかりました。
いかがでしたでしょうか?みなさんの企業でもヒントになると感じたことがあれば感想や議論をぜひシェアしてみてください。

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